恋しいアジア!お腹もまんぷく美味しい食紀行
映画ロケ地聖地巡礼で尾道へ!山頂ホテルの名物はタイ料理!?

海と山に囲まれた尾道は、大林宜彦監督が手掛けた映画のロケ地として有名になりました。代表とされる尾道三部作『転校生』、『時をかける少女』、『さびしんぼう』の公開から40年以上も経っているというのに、いまだに当時の撮影場所を訪れる聖地巡礼をする人が絶えません。
もちろん、この原稿を書いている私も尾道が好きで、大林監督のファンなのです。今回、私が尾道を訪れたのは、「ロケ地となった“ある場所”がその姿を消してしまう」という情報があったから。これは大変だ!
坂の街、文学の街、映画の街、尾道
まず、JR尾道駅に降り立った私はびっくり! 駅舎がすごくきれいになっているではありませんか。以前は木造の平屋建てだったと記憶していますが、私が最後に尾道を訪れたのは20年以上も前のことですからね。駅舎は2019年3月に新しくなっていました。
尾道は広島県の東部にある温暖な地です。駅の背後には山肌に沿って民家が建ち並び、目の前には尾道水道が広がります。その尾道水道を挟んで向かいには向島や因島などがあり、しまなみ海道と呼ばれる島と島を結ぶルートが、サイクリングやドライブをする人たちに人気となっています。
見てください、この尾道街道を望む景色!水面に太陽の光が反射して、キラキラと輝く様子は、スクリーンで見た当時の美しさと変わりません。少女時代を尾道で過ごした小説家の林芙美子の代表作『放浪記』は尾道が舞台となっていて、「海が見えた。海が見える。」と尾道の情景をその一節に残しています。
福本渡船よ! ありがとう さようなら!
尾道水道を眺めていると、いくつものクレーンが動いている様子をみることができます。これは造船所のもので、尾道は造船の街でもあります。夜になると造船所全体をライトが照らし、昼とは違う美しい光景が現れて、夜景スポットとしても素敵なのです。
そして今回、その光景の中にあった本土側の尾道と向島を結ぶ福本渡船のフェリーの運航が3月末で幕を閉じるということで、急いで訪れたのです。福本渡船は135年もの歴史ある渡船業者で、尾道を舞台にした映画にも登場しています。
実際に福本渡船のフェリー乗り場に行ってみましょう。
フェリーは、徒歩で利用している人もいれば、自転車もしくはオートバイで乗り込む人もいます。車両もOKなので、トラックもあればタクシーも。通勤、通学、買い物、通院など、日常の足となっているフェリーなのです。
「向島行きフェリーのりば」から実際に乗ってみると、風が心地よく感じるくらいの速度で気持ちいいです。直線で約300mの距離を約3分で運行しているので、あっという間に向島に到着です。この景色を映画「さびしんぼう」の主役である富田靖子さんも見ていたかと思うと胸がジーンとしてしまいました。
3月で福本渡船の運航は終わりますが、他にも2路線のフェリーが運航しているので、本土と島との行き来はできます。でも、やはり映画の光景がなくなってしまうのは悲しいですね。
ディナーは山の上のタイ料理!
せっかく尾道に来たのならば!と、尾道グルメを楽しみたいものです。尾道ラーメンをはじめ、あなご丼やたこ飯などがありますが、この地でもエスニックを求めてしまう私であります。
訪れたのは、山の上にあるタイレストラン「タンタワン」(タイ語で「ひまわり」の意味)です。急斜面に建つレストランに行くまでは、坂道の洗礼を受けることになります。
尾道に行ったことのある人ならば共感してもらえると思うのですが、尾道の坂は急で、道幅が狭い。さらに階段も多いので、すごく体力を消耗します。
やっとの思いで辿り着いてみると、こちらはホテルの併設レストランで、宿泊者も利用する場所となっています。オーナーの奥様がタイ人で、接客から調理まで担当されていました。着くまでが大変でしたが、ここは山の上! 窓からはご褒美ともいえる素敵な夜景を見ることができて最高のロケーションです。
早速、タイのビールを飲みながら、タイ料理の「トードマン」(800円)をいただきます。この料理は、魚のすり身を揚げたタイ版さつまあげのようなもので、豚ひき肉とコーンが入っています。サクッと歯切れがよくて、たっぷりとかかっているスイートチリソースとの相性が抜群でとてもおいしいです。アルコールのお供にぴったりでした。
さらに、タイの代表的料理「カオマンガイ」(1200円)を注文。こちらは茹でた鶏肉とごはんにサラダとオレンジ、スープがついていました。ふっくらした鶏肉を醤油ペースのタレをつけていただくと、ごはんがすすみますね。
週末に訪れましたが、店内にいる人たちは宿泊者とレストランを目当てに来店の人、半々な感じでした。お店への道のりは大変でしたが、料理がおいしく、夜景もきれいでしたのでがんばって来てよかったです。
尾道グルメを紹介
私はフェリーにも乗れて、タイ料理も食べられて満足でした。とはいえ、尾道ならではのグルメも楽しまなくては!と、地元の人たちに混ざって、尾道産のクラフトビールや尾道らーめんも楽しみましたので、少しご紹介しますね。
1894年築の古蔵を改装してビール醸造所を作った「尾道ブルワリー」にて、店内醸造の「クラフトビール3種飲み比べ」いただきました。すっきりとしたのど越しで飲みやすく、ホップの印象がそれぞれ違うのがおもしろかったです。
また、尾道らーめんは、街中にたくさんの店舗があるので、どの店にしようか迷ってしまいます。なかでも、尾道水道を眺めながら食べられる「喰海」へ行ってみました。魚介系と豚骨系の合わせ醤油スープに、尾道らーめんの特徴である豚の背脂がたっぷり。背脂たっぷりでもスープがすっきりしているので完食しやすいと思います。
今夏は、尾道を舞台にした映画「リライト」が公開されるとのことなので、また新たな聖地巡礼で尾道を訪れる人が増えるかも。また、古寺巡りを楽しまれる人も多いので、機会があったらぜひ訪れてみてくださいね。
プロフィール
伊能すみ子
アジアンフードディレクター/1級フードアナリストアジア料理を得意とし、旅をしながら食の楽しさを探究。メディアを中心にアジア食品の提案、店舗リサーチ、食文化コラム執筆など幅広く活動。また、ごはん比較探求ユニット「アジアごはんズ」では、シンガポール担当として、東南アジア4カ国の食べ比べイベントを不定期で開催している。
