エッセイ

47都道府県 イラストで名所巡り♪

鹿児島県「屋久島 縄文杉」夏

39回目は鹿児島県 『屋久島 縄文杉』です。
今回もいつか行きたい場所、鹿児島県『屋久島 縄文杉』を描くことにしました。

鹿児島はいつか行きたい場所の一つです。
15年ぐらい前に、麻布十番にあるカフェで長い間私の絵を飾ってくれていました。

今は残念ながらそのお店はありません。その時大変お世話になったお店のオーナーご夫婦が鹿児島県の与論島に移住しました。SNSでそのご夫婦の近況の写真を見る度に、与論島は何て素敵なところなのだろうと、行きたい気持ちが募ります。

今回、与論島を描こうかとも思ったのですが、与論島はいつかそのご夫婦のところへ遊びに行く機会があるような気がして…。自分の目で実際に風景を見て絵を描きたいと思いました。

鹿児島と言えば、以前から気になっているのが屋久島です。
世界遺産でありパワースポットとしても知られている人気の場所なので、これをご覧になっている方で訪れた方もいると思います。
行ったことがある方はその時の旅を思い出してもらえたら、そして、これから行く方にはわくわくと想像を膨らませてもらえたら嬉しいです。

今回も創作で短編小説を書きました。
小説の世界で一緒に楽しく旅に出ましょう。

「屋久島の縄文杉」(創作小説)

私たち夫婦は結婚20年目を迎えた。
子供はいない。欲しくなかった訳ではなく、お互い仕事が忙しく、タイミングを逃してしまった。子供がいなくて一時期寂しく思ったり子持ちの友人を羨ましく、産まなかった後悔を感じることもあった。

だが、子どものいる友人から子育ての現実や苦悩、夫婦喧嘩の8割が子供のことだと聞き、逆に子供がいない生活を羨ましがられた。
子供がいる幸せ、いない幸せ、どちらも天秤で測ることは出来ないのだと知った。

私たちは年に2回は長期休暇をとり、海外や国内を夫婦二人で気ままに旅行に出掛けている。
今年はどこへ行こうかと、休日に近所のカフェで夫と夏休みの旅行について話していた。去年は長崎の五島列島に行き、一昨年は北海道の函館へ行った。今年はどこに行くべきか。

すると、そんな私たちを見かねたのか隣の席の老夫婦が声を掛けてきた。
そのご夫婦は先日鹿児島県の屋久島に行ってきたという。老夫婦には縄文杉までの道中は少々きつかったようだ。体力に自信があるうちに行くと良いと勧められた。

私たち夫婦もそう若くはない年だ。山登り、長距離の散策、冒険を伴う旅行へは出来るだけ早く行っておいた方が良いだろう。他にも旅の候補地を探してみたものの、先程の老夫婦の「屋久島」の話が頭から離れない。
「今年の夏は屋久島に行こう」と決まった。

屋久島は1993年世界遺産として登録された。世界最古の植物・樹齢4000年の「縄文杉」や途中の山道にある日本で最後の森林鉄道で知られる「トロッコ道」、ハート型の切り株「ウィルソン株」、宮崎駿の「もののけ姫」の舞台にもなったとされる「屋久島白谷雲水峡」等など、他にも沢山の見どころがある。

縄文杉に行った友人からも、登山道を歩くトレッキングなので思ったよりハードで体力が要ると聞いた。そこで事前にトレッキングシューズを準備して屋久島へ向かった。

縄文杉と白谷雲水峡を1日で周るコースを選んだ。ホテルを早朝に出て、バスで登山口へ向かう。集合場所からはガイドさんに案内してもらい、夜明けと共に歩き始めた。映像や冊子で見るよりも、圧倒的な存在感と神々しいまでの美しさと幻想的な世界が広がっていた。

鳥がさえずり、歩いていくと木々の葉が風にこすれる音だけが聞こえてきた。思った以上に道中の道は険しく、屋久島のシンボルである「縄文杉」のあたりにたどり着く頃には体力も尽き果て、声も出ないほどだった。

そのためか、大きな大きな縄文杉を見ただけで涙が溢れ出てきた。縄文杉は大地の母のようにどっしりと根付き、天に向かって大きくそびえていた。屋久杉には樹齢1000年を超えるものも多いが、縄文杉は樹齢4000年~7200年という説もあり、壮大なロマンを感じた。縄文杉は悠久の時を重ね、人々を見守りながら生きてきたのだろうか。もし縄文杉が話せるなら、色々な話を聞いてみたいと思った。夫も感動したのか言葉を失っていた。

帰路で夫が「最近仕事の業績があまりよくなかったんだけど、縄文杉のパワーのおかげで、いいアイデアが浮かんだよ」と明るい顔で話してくれた。仕事のことで落ち込んでいた夫の心を縄文杉は前向きに無言で癒してくれたようだ。

私もこの道中に色々な気持ちが芽生えた。最近夫婦での会話も減っていたけれど、トレッキング中、前を歩く夫がたびたび振り返り私を気にしてくれていて、疲れた私を労ってくれた姿をみて、この先夫に何があっても支えて行きたいと思った。そして私たち夫婦二人で乗り越えて行けると強い気持ちになった。これも屋久島の自然と、縄文杉が無言で伝えてくれたメッセージなのかもしれない。

人生でこれほど感動できる場面に何度出会えるだろう。心を震わすような時をこれからも一つ一つ大切にしたいと思った。

プロフィール

本山浩子

東京都出身 イラストレーター 人物のハッピーでキャッチーなタッチと風景の和む優しいドラマを感じるタッチで出版・広告等で、大人から子供向けまで幅広い世代に愛されるイラストを手掛ける。2013年に読売新聞夕刊で毎週「本山浩子の駅前とことこ」で散歩イラストエッセイも連載。
47エッセイでは旅に出たくなるような47都道府県の名所のイラストを楽しく描き綴る。
MH-Alegria

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