エッセイ

47都道府県 イラストで名所巡り♪

和歌山県「熊野古道」秋

36回目は和歌山県の「熊野古道」です。

和歌山県には落差ある姿が美しい那智の滝、熊野本宮大社、かわいいパンダがいるアドベンチャーワールド、和歌山城、白良浜、教科書にも出てきた金剛峯寺、岩が立ち並ぶ姿が美しい橋杭岩など……名所が沢山あります。

中でも世界遺産の「熊野古道」は一度は歩いてみたい道です。
熊野古道、神社、川、滝、自然、全ての景観が世界遺産とされています。

今回も、いつか訪れてみたい場所を絵に描くことにしました。
短編小説のような気分で読んでもらえたら嬉しいです。

「熊野古道へ」(創作小説)

この春、一人息子のトオルがアメリカの大学に進学した。
彼が海外への関心を持ち始めたのは、中学生の頃だった。
ヒップホップ音楽への興味から、夢中になって英語を勉強するようになり、念願叶って海外の大学へと進学したのだ。

思い出してみると、自分にもそんな時期があった……。
「バック・トゥ・ ザ・フューチャー」や「007」等の海外映画や「シャーロックホームズ」、「セックス・アンド・ザ・シティー」のテレビドラマに影響を受け、アメリカやイギリスの暮らし、文化に憧れを持った。

大学生になりバイトを始めると、溜まったお金で夏休みにイギリスのロンドンへ短期語学留学に行った。
英語が話せるようになると、英語圏以外の国々にも興味を持ち始めた。行った外国の数は30カ国を超える。
カンボジアで植林のボランティアにも参加し、そこで今の旦那に出会った。
あの頃は外国の文化、食べ物、街、暮らし、人々全てが新鮮で刺激的で面白かった。

だが、段々と年を重ねていく内に海外文化の新鮮さが薄れ、逆に日本の歴史や文化の奥深さを感じ、知らないことがまだまだあることに気づいた。
「生まれ育ったこの日本をもっと見ておきたい。」という気持ちが湧いてきたのだ。
自由な時間が増えたら日本全国を旅しようと夫婦共々意見が一致していた。
そして、50代を迎えた去年から「日本全国制覇」を目標に旅を始めたのだ。

この休みは、TVで見た旅行番組で特集され、気になっていた和歌山県へ行くことになった。和歌山といえば「熊野古道」。
既に行ったことがある旦那は「ただの山道だよ」と失礼なことを言っている。

熊野は「よみがえりの地」とされる場所で、熊野三山(『熊野本宮大社』『熊野速玉大社』『熊野那智大社』の3社と『那智山青岸渡寺』1寺の総称)を詣でる道のことを言う。
「熊野古道」は古来より先人たちが歩んだ「巡礼の道」なのだ。

その道を私は今歩いている。それだけで心がワクワクした。

熊野古道は歩き巡るルートは6つある。「伊勢路」「中辺路」「小辺路」「大峯奥駈道」「大辺路」「紀伊路」。

私たちは「中辺路」の大門坂入口からスタートし、歩き始めた。

背の高い杉木立が並び、苔むした古い石畳の道が続いている。鮮やかに色づく濃い緑が美しい。杉の木々の間からは太陽の光が入り込みキラキラと瞬いていて、まるで絵画のような自然が織りなす世界が広がっていた。

その道を歩いていくと「熊野那智大社」、その先には「那智の滝」が見える。熊野古道は霧が出ると尚幻想的な景色になるという。

自然は季節によってまったく違う顔を見せてくれる。自然の美しさに見入ってしまい休み休み歩みを進める。しばし言葉を忘れ、森の大自然に身を投じ、今までの人生を振り返る。子育てに夢中になった19年間、育児に仕事に翻弄し、自分のやりたいことは殆ど出来なかった気がする。「忍耐」、「我慢」と同時に沢山の「喜び」と「幸せ」を息子からもらった。

まだ程よい疲れは残っているが、全てがゼロになり、これから新たな人生が始まるような気持ちになった。そして一緒に子育てをしてきた同志である旦那にも感謝の気持ちが湧いてきた。

この道は参拝のための道であり、滝が信仰の対象になっている。歩きながら人生を振り返り、滝に心を洗われる。

「あ~日本に生まれてよかった」思わず独り言が出た。

☆イラストは「中辺路」の大門坂入口からスタートし歩いていると見えてくる路をイメージして描いています。

プロフィール

本山浩子

東京都出身 イラストレーター 人物のハッピーでキャッチーなタッチと風景の和む優しいドラマを感じるタッチで出版・広告等で、大人から子供向けまで幅広い世代に愛されるイラストを手掛ける。2013年に読売新聞夕刊で毎週「本山浩子の駅前とことこ」で散歩イラストエッセイも連載。
47エッセイでは旅に出たくなるような47都道府県の名所のイラストを楽しく描き綴る。
MH-Alegria

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